【都市伝説を追う】
外国人に人気の都内の観光スポットといえば、銀座や浅草だが、特定の外国人が住みたくなる街もある。都の資料では、なぜか新宿区は都内でフランス人が最も多く住んでいる自治体となっている。ポイントは、神楽坂の存在-。芸者が歩く神楽坂界隈(かいわい)は、路地が入り組み、坂が多く、どこかパリの街を思わせるらしく、フランス人をとりこにしているようなのだ。
■新宿区で3番目に多いフランス人
新宿区が発行している区勢紹介の冊子によると、同区に住む外国人のうち、フランス人は、韓国人又は朝鮮人、中国人に次いで3番目に多い。不思議に思って、同区区政情報課に聞いたところ、「神楽坂が面白いのではないでしょうか」とヒントをもらった。
そこで、さっそく神楽坂を歩いてみたところ、趣深い料亭や石畳の路地、あか抜けたカフェが目立つ。花柳界の面影が残り、洗練された都会の雰囲気も漂う…。この日も、週末の家族連れがいた。
確かに、おしゃれなフランス人が好きになりそうな要素が満載だ。
都の統計では、平成21年7月現在、都内のフランス人登録人口は5832人。このうち、最多の自治体は、新宿区で1216人。次いで、港区が1010人、渋谷区が571人と続く。
■フランス人居住者数、全国最多の可能性大
ちなみに、大都市統計協議会によると、東京以外の自治体では、横浜市が351人(19年末)で最も多い。次いで、京都市。いずれにせよ、新宿区の数字には及ばないことから、新宿区がフランス人居住者数で全国一の可能性が高い。
ところで、港区が都内で2番目にフランス人の住民が多い理由は、分かりやすい。「各国の大使館や外資系の企業が多く、もともと欧米系の外国人が多く住んでいる」(港区国際化推進担当)からだ。
しかし、なぜ新宿区にフランス人が多く住むのか。新宿区などに尋ねると、まずは、2つの学校の名前があがった。
フランス語学学校や文化施設を備える「東京日仏学院」(同区市谷船河原町)には、フランス映画の上映会などのイベントにフランス人家族がよく集まる。また、外濠対岸の千代田区富士見には「日仏学園リセ・フランコ・ジャポネ・ド・東京」富士見校があり、隣接する新宿区内にフランス人が住んでいる。両校とも神楽坂まで、徒歩数分の距離だ。
■学校、町並み、住民…
また、実際に神楽坂周辺で仕事をしたり、生活をしているフランス人に話を聞いてみると、確かに街そのものが愛されていることが分かった。
「呉服や飲食店の老舗、おしゃれなカフェやバー。神楽坂は伝統と流行が交錯する街」と、神楽坂の魅力を語るのは新宿区在住の女性エッセイスト、ドラ・トーザンさん。神楽坂通り脇の路地にあるカフェには、パリの裏路地、パサージュのカフェの雰囲気も…。
ドラさんは、世田谷、渋谷区に住んできたが、神楽坂周辺が自分にぴったりな街だという。「老舗の主人たちとの会話が弾んでアットホーム。ヨーロッパには歴史を感じる街が多いので、伝統的な神楽坂の町並みはリラックスできる」
クレープを扱うカフェ「ル ブルターニュ」(新宿区神楽坂)を経営するラーシェ・ベルトランさんも「古い建物や石畳、路地…。神楽坂の町並みが好き」と話す。確かに、神楽坂通り脇の路地にあるカフェは、パリ裏路地のカフェと見まごうほどだ。
フランス人が多いことについて、神楽坂の住民たちに尋ねてみると、「よく歩いているよね」「お客さんとして来るから助かる」と大きな感慨はない様子。
街全体でフランス人を呼ぼうといった動きがあるわけでもなく、反対するわけでもない。神楽坂の日本人たちは、フランス人たちを自然に受け止めているようだ。
■望郷の念をいやす街
ラーシェさんと十数年来の付き合いがあるという神楽坂通り商店会会長で「毘沙門せんべい 福屋」を経営する福井清一郎さん(60)は「家族という感じで接している」と話し、“神楽坂好き”のフランス人たちを歓迎している。
職場や教育機関などの生活に必要な立地条件だけでなく、街そのものの息づかいが、遠い異国で生まれた人々の望郷の念をいやしているようだ。